No.10 東京大学 教養学部

記事No.10

氏名

T.S.

八高(八代中)卒業年次

69回卒(八代中3回卒)

大学・学部・学科/卒業年

東京大学 教養学部/2022年卒業予定

八高時代の自分

八高時代は、とりたてて高い視座や将来の夢を持っていたわけではなく、朝課外から部活までの時間と、自宅での予習・復習を一生懸命こなしていました。とりわけ高校3年生の初夏までは、苦手な運動を克服するために入部したハンドボール部での練習でクタクタになっていたので、部活から帰ってきて課題をこなし、布団に倒れ伏す日々だったように記憶しています。

進路の決め手

そのような毎日でも、高校2年生の終わり頃、進路先を意識するきっかけがありました。先生方の懇意で参加させていただいたディベート大会です。全国から集まった学生を目の当たりにしたとき、漫然と毎日をやり過ごしていた自分とは全く異なる経験や視座を持っていることに驚いたのです。そこから、自分の前提や限界値が通用しない環境に身を置いてみたいと、東京大学を目指すことにしました。

受験方法

入試形式は、センター試験(今でいうところの共通テスト)と二次試験から成る一般入試を選択しました。本腰を入れて勉強し始めたのが高校3年生の初夏だったこともあり、高度なテクニックや傾向分析をする余裕がなく、教科書の内容を100%理解することに徹していました。とはいえ、高校3年間は、ひとつの勉強方法を盲信的に続けるよりも、様々な方法を実験的に試していくと良いと思います。これは自省の念も含めてですが、どこで勉強するかより、勉強の面白みを自分で見つけられるかの方がはるかに重要です。上京したての私は「東大に行くことが当たり前」とされる進学校出身の学生に圧倒されていました。しかし、冷静になって振り返ると、膨大な学問領域を前に、高校までの教養の差はそこまで問題ではありません。むしろ、不確実な問いに対して自分なりの解を出し続ける根気強さの方が必要とされているように感じます。そのような意味において、地方か都会かに関係なく、主体的に学びをデザインできる人が、総合大学という環境を心から楽しむことができるのではないでしょうか。

大学で学んだことや思い出

東京大学では、2年生時に学部選択があるため、それまで様々な分野の講義を受講できます。私は将来の道が決まっていなかったこともあり、興味のおもむくまま講義に潜っていたのですが、どういうわけか農学部の講義にのめり込みました。2年生の春学期はほとんどキャンパスにおらず、北関東や北海道の山々に登り、東大の演習林でチェーンソーを使ってみるなどしていました。森林の生態系や林業の実態、珍しい高山植物などは、書籍を読んでもピンとこないものなので、実際に教授から教えてもらうのは貴重な機会だったと思います。

その後、教養学部 超域文化科学分科 表象文化論コースへ進学することにしました。最後まで農学部と迷ってはいたのですが、幼い頃から淡く抱いていた映画や文学に対する純粋な興味の方が、今後の人生を駆動してくれるのではないかと半ば直感で決めました。とはいえ、学部の名前からも伺えるとおり、何を学ぶのかは学生の自主性に委ねられています。「教養」というものはあらゆる知性を指しますし、「表象」というものは、何かしらの表現行為によってつくられたイメージ全てを包含します。規定が少ないことによる自由がある一方で、専門性がないことへのコンプレックスを抱きながら研究対象を見極めていくことは、非常にタフなことでもあります。そのため、知ることに貪欲で、「なぜ」を問うことが好きな人には、お勧めの学部だと思います。

もうひとつ特徴を挙げるとすれば、ニッチな研究をしている教授と少人数制で(時には学生2-3人の講義もあります)議論できる環境が揃っています。言い換えると、インターネット上には流布していない知識や問いのタネと出会える機会が多く、「大学に来てよかった」と思える瞬間が多いです。

学内外での活動(サークル・部活・学生団体等)

雪化粧をまとった駒場キャンパスの一号館です。ここ2年間は閑散としていたキャンパスも、少しずつ学生の姿が戻ってきました。

課外活動のなかで最も時間を割いてきたのは、大学2年生から始めたIT企業での長期インターンシップです。目まぐるしいスピードで変革を起こしている領域に飛び込んでみることは、のんびり屋の私にとって、非常に大きな転換点となりました。コロナ禍以降、完全リモート勤務が可能な企業も増えてきているため、住む場所に関わらず、様々な企業を経験する機会は豊かになってきているのではないでしょうか。

余暇時間は、大学近くのミニシアターで映画を鑑賞したり、近所の古本屋で立ち読みすることが多かったです。もちろん友人たちと過ごす時間も楽しいものですが、ふと立ち止まり、ひとりで頭の中を整理する時間も有意義でした。

現役八高生へのメッセージ

道を拓く選択肢は無数にあり、有名大学に進学することだけが全てではないと思っています。卒業後5年が経ちますが、様々な大学・職業・地域で頑張っている同期の朗報を耳にすることもあり、その度に、私も負けてられないなと背中を押してもらいます。大事なのは、選んだ道を自分で正解にするために、目の前のことにベストエフォートで取り組むことだと思います。それでも、努力が報われないことが、たくさん、たくさん、あるかもしれません。そんな時は、責任をひとりで負わず、周りに相談してみてください。先生でも良いですし、普段話したことのない友達でも良いと思います。見えていなかった打開策を発見するきっかけになるかもしれません。

長くなりましたが、みなさんが心躍ることに出会い、毎朝起きるのが楽しみになるような毎日を過ごせますよう、心から祈っております。